連載コラム第3回 フィンテック(後編)

連載コラム第3回 フィンテック(後編) 2017年11月2日

フィンテックの後編では、「仮想通貨」を取り上げてみる。

最近では仮想通貨という文字を新聞やネットなどのメディア上で見ない日は無いくらいになった。2014年にはマウントゴックスという仮想通貨取引所で、85万ビットコイン(数十億円相当)がハッキングによって突然消失したとして経営破綻した事件があって、一気に有名になった。僕自身は直接、購入経験がないので実感はないが、仮想通貨を使った格安で迅速な送金サービスは世界各地で広がっていて、既存の銀行の事業領域を侵食しつつあるのは事実である。

仮想通貨とは読んで字のごとし、インターネット上だけの概念であり「仮想」なので、通貨供給量をコントロールする中央銀行があるわけではない。「無国籍通貨」と言われる所以だ。マイナー(採掘者)と呼ばれる業者がコンピュータで複雑な暗号を解いて仮想通貨取引を承認し、報酬を得る仕組みで、ブロックチェーンというテクノロジーを使っていて、海外では暗号通貨と呼ばれている。価格は不安定であり、今日1万円の価値があっても、明日は7000円に値下がりするかもしれない。価値がゼロになっても誰も保証してくれない。支払いにも使えるが、現時点では投機や投資といった性格が強い。

まずは仮想通貨を取引所で購入したうえで、スマホを使って手軽に第三者に送金したり、インターネットで買い物できる。便利なので急速に広まり、日本国内で最も流通している仮想通貨である「ビットコイン」の保有者数は、17年8月中旬に70万人を超えた。家電量販店のビックカメラほか国内で使える店舗が1万か所を超え、1日の買い物の大半をビットコインで済ませる人も増えたという新聞報道もある。しかし、変動の激しい仮想通貨の相場(時価)を一々気にしながら商品を買う気になる人はさほど多くないだろう。現在急増している投資家の多くは、ビットコインそのものへの値上がり期待の投機が目的だ。

仮想通貨はいくつも種類があるが、そのなかでも一番多く流通している「ビットコイン」を売買する国内最大の取引所を運営するのはビットフライヤーである。最近では、ビットコイン取引の需要急増に承認手続きが追いつかず、17年8月にビットコインが分裂し、新しい通貨「ビットコインキャッシュ(BCH)」が生まれた。17年10月時点の利用者は80万人となり、月間売買高は2兆円を超えたという。10月下旬にビットコインゴールド(BTG)を分裂させ、続いて11月中旬には次の分裂計画もあるという。

分裂すれば、本来は分裂前の価値と分裂後の2つの価値を足したものは同じはずだが、値上がり期待の投機マネーが流入しているので、価格はどんどん上昇している。あきらかにバブルだ。通貨の供給量の管理者が存在しないなかで、時価総額5兆円といわれるビットコインも他の仮想通貨同様に前途不透明な市場であることは間違いない。ブラックな資金が流れ込んでいるという噂も絶えない。どこかで弾けそうな予感もする。2008年に書かれたSN氏の論文が基になって始まった仮想通貨、その時点では「通貨発行の上限を決めているのでインフレ懸念は不要」という前提だったはず。だが、分裂に次ぐ分裂で、もはやそんな前提は崩れている気がする。

仮想通貨を通じた資金洗浄や資金の海外流出を懸念する中国の金融当局は、規制・監視を強化する姿勢を示し、17年9月14日から地方の金融当局が管轄の仮想通貨取引所に対して閉鎖するように指示し始めた。いずれ中国の仮想通貨取引所は全面的に閉鎖されるだろう。

これらの流れを受け、メガバンク3行は各陣営にこだわらず、オールジャパンでデジタル通貨を作ろうとしていると報道された。しかし、実態はどうだろうか。規格作りの足並みがそろえば大したものだが、それぞれ各行ごとにやりたいこと、言い分がありそうだ。仮想通貨にするのか、仮に仮想通貨だとしても1コイン=1円に近いもの(変動幅を少なくする)にするか、1コイン=1円に固定したデジタルマネーを発行するかを巡っても対立し、統一は時間がかかりそうな気がする。JコインでもMUFGコインでも何でもいいが、ユーザーとしては無料の送金決済システム構築が待たれる。IT系ベンチャー企業群が、手軽にできる金融サービスを提供するようになり、構造不況業種とささやかれ始めたメガバンクもやっと重たい腰を上げた感は否めない。

地域限定の電子マネーの導入も国内各地で実証実験が始まった。

飛騨信組は高山市周辺を対象に地域通貨を発行する。利用者は飛騨信組の窓口で1円を1コインとして換金しておき、商品を購入するとき店が提示するQRコードをスマホで読み込んで決済する。店側はクレジットカードなどと違い専用端末が不要で、導入コストはほぼゼロだ。実証実験は終わり、17年10月下旬には一般市民対象の仕組みに移行するという(17年8月22日)。近鉄グループ、会津大学、山陰合同銀行なども相次いで実証実験を始めている。

我が国の現在の金融関連法制は、銀行は銀行法、電子マネー業は資金決済法、クレジットカード会社は割賦販売法という縦割り法制になっている。金融庁はこれを全面的に見直し、2018年度以降に新たな法体系でそれらを一本化するという。中国・韓国のような厳格な管理型とは異なり、じっくりと様子見型でいくのだろうか。

資金調達方法にも仮想通貨を使った資金調達方法が考案され、ICO(イニシャル・コイン・オファリング=新規仮想通貨公開)といい、実際に資金調達が始まったが、発行審査が厳格でないため、資金使途や計画、情報開示に不明な点も多い。17年10月27日に金融庁は「ICOの仕組み次第では資金決済法や金融商品取引法の規制対象になり、無登録で事業を行えば刑事罰の対象になる」との警告文を発表した。警告文だけでは効果は少ない気がする。いずれにしても、打ち出の小槌はこの世に存在しないし、簡単に金が稼げる事業などは無いことを起業家・事業家自身には再認識してほしい。

保険の分野でも契約者の健康情報などのビッグデータを保険商品に活かそうと模索している。すでに保険契約者の歩数や心拍数をもとに保険料を5%~10%安くするサービスを始めた大手生保もある。健康データから病気の発症リスクを割り出し保険料に反映させる保険の登場はもうすぐだ。高い保険料にあぐらをかいているような旧態依然たる保険会社はいずれ淘汰されていくだろう。

中小企業にとっては、これらのフィンテックの現状は「自社とは関係が無いからどうでもいい」のだろうか。いや、違う。これらの動向を知っておくことが必ず自社の2年後3年後の姿につながる。環境変化は猛烈に早いのだ。

2017年4月には資金決済法が改正・施行され、仮想通貨の法的な定義を明確にし、円などの各国通貨との売買ルールを決めた。金融庁は9月29日に仮想通貨の取引所として11社を登録したと発表した。10月以降も順次、審査をクリアした取引所を登録するという。また、7月からは仮想通貨の購入に消費税がかからなくなり、ネット上の決済手段として身近なものになりつつある。

専門的な話になるが、日本の会計基準をつくっている企業会計基準委員会(ASBJ)は2017年11月には仮想通貨に関する公開草案を出す予定という。また、東京都は国家戦略特区を活用し、都内に新たに進出するフィンテック企業等の税負担軽減を国に求めると同時に、法人事業税・都民税の引き下げも検討しているという(2017年8月30日)。

また、我が国の国税庁は「ビットコインを使用するときに生じた利益は所得税の課税対象となる」とホームページ上で告知した(17年8月)が、どのようにその利益を把握(捕捉)するのだろうか。

この仮想通貨が、従来の金融秩序を壊す革命児になり、良貨として認知されるのか、単なる投機商品として、あるいは悪貨として駆逐されるかは不明だが、社会生活に与える影響はますます増えていくだろう。今後の動向を注目していきたい。

・日本全国の商店、飲食店、タクシーでの顧客の支払い手段が、カード払い、スマホ対応、電子マネー、仮想通貨に変わり、キャッシュレスになった。自販機もカードかスマホだけが使える。コンビニでは、顔認証だけで、つまりレジなしで買い物ができるところもでてきた。

・個人の家計管理、資金繰り予測だけでなく、余裕資金についてもAIに任せておけば最適な投資を勝手にやってくれている。

・中小企業でも請求書発行や売掛金回収、領収書の自動仕訳を含む日々の会計処理から決算書・申告書作成まで、すべてAIによって自動化された。

・借入の申し込みはAI審査になってから簡単で素早くなった。

・カードやスマホアプリを使う時にパスワード入力等の認証方法が生体認証に変わり、簡単になった。

・スマホアプリで、一度も会ったことがない貸し手と借り手のマッチングが行われ、資金を融通し合うようになった。被害防止の監督制度ができてからは、安全性が増した。このアプリを使えば銀行経由の面倒くさい融資業務は不要だ。

…これらは現時点での僕の妄想である。しかし、これらがごく普通のことになるのは時間の問題だ。どんな事業をしていようとも、どこかで何らかのフィンテック関連の事象に接することになるだろう。

フィンテックの動きを知っていてじっくり対応するのと、突然知ってびっくりして慌てて対応するのとでは、自社の事業の損益状況が明らかに違ってくる。場合によっては、数百万円単位の利益の差が出るかもしれない。いま現在はフィンテックと無関係の中小企業経営者といえども、情報収集を怠らずにおくべきだと言っておきたい。