【連載コラム】第9回/「集中」型と「分散」型のバランス            

連載コラム第9回    「集中」型と「分散」型のバランス

会社全体の組織を創ろうとするとき、または情報システムを構築するとき、あるいは何らかの壁にぶちあたってそれらを変革しようとするときに、「集中」型でいくべきか、「分散」型にしようか、根本的なところから悩むことがある。

先日、たまたまテレビを見ていたら、眼鏡チェーン店で店舗展開のやり方を根本的に変えたら業績が見事にⅤ字回復した、という報道番組をやっていた。

この会社は、どの多店舗展開型企業でも一般的にみられるように、本部で一括仕入れした商品のみを統一価格で、各店舗において同じセールス方法で販売し、あらゆる業務をすべて本部で決めたルール通り各店舗で実行して、いままで成長してきた。

だが、ある規模(この会社は全国に300店舗以上あるようだ)を超えると、これもよくありがちなことだが、仕入商品も、販売方法も、販促方法も、人事・業績評価も、すべてにわたってマンネリ化し、社員のやる気も徐々に落ち込み、売上高の成長率も落ち、ついには予算を達成できないだけでなく、前年同月の売上を割り込むことになった。さて、どうしようか、というわけだ。

まずは、それぞれの店長に仕入の権限を委譲し、商品の陳列方法、POP等の掲示も各店舗に任せた。最初は「本当にやっていいのか…失敗したらあとで叱られるのではないか」と疑心暗鬼、おっかなびっくりだった。いざやってみると、自分が自信を持って仕入れた商品だから自信を持って客に売り込める、という具合に良い回転が始まった。続いて、店舗の改装や陳列替えも他店舗の社員が自発的に協力してくれるようになり、業績も順調に回復したという。

創業当時から急成長期までは「集中」型で進み、どこを切っても金太郎飴状態にして、お客様には全国どの店舗でも同じ商品を提供し、同じサービスができる。これが多店舗展開する企業の鉄則である。

しかし、ある程度成長した時点で、商品に飽きがきて新鮮味がなくなったり、顧客の好みが変わったり、環境変化についていけなくなるなど、何らかの理由で踊り場が訪れることも企業の成長の過程のなかではよくあることだ。商品開発や店舗開発は順調であっても、多店舗展開するスピードに人材育成のスピードがついていけないということもある。

この会社のケースは、「集中」型から「分散」型に切り替えて成功した良い事例だと思う。組織の考え方を大きく変えてすぐに何もかもうまくいくはずもなく、ある程度の権限を委譲できるだけの自律・自立型社員が増えるための土壌創りなど、相当な努力をしたのだと思う。「集中」型の効率重視、採算重視から、現場に近いところに権限を委譲し、現場の人々の能力ややる気発揮に賭けた経営者の意思決定も相当な覚悟が必要だったろう。

以上のような組織形態の事例だけでなく、最近のIoT(あらゆるものがインターネットにつながる状態)の分野でも同じような状況が見られる。

IoTでは、各種機器のデータを外部のクラウドに集約するシステムが中心だった。いわゆる「集中」型だ。データを1カ所に集めることで、AIや専用ソフトウエアで分析しやすくなる。しかし、弱点もある。スピードである。

たとえば、工場内でのロボットの動きをいちいちクラウドで管理していたらデータの送受信に時間がかかり、ロボットを効率的にスピーディに動かせない。そこでエッジ(末端)コンピューティングという方法を使う。こちらは「分散」型と言ってよい。

ロボットや工作機器の動きに直結するデータは工場内で処理し、生産状況などのデータはクラウドで管理するなど、長所の活かし方によってクラウドとエッジを使い分けることが重要なのだ。

いま述べたことは、組織作りやシステム作りにおいて、集中型にするか分散型で行くかを考えるときだけでなく、どんなことを考えて実行するにしても「虫の眼」と「鳥の眼」の両方を持つべきだいうことと同じなのではないだろうか。

対象物を「虫の眼」を持って詳細に観察し、施策を検討したうえで、「鳥の眼」を持って大所高所からその施策を再度検討するべきなのだ。それはなぜか。

「虫の眼」だけしか持たないと部分最適に陥り、全体最適な策にならない場合が多いからである。全体最適なプランでないとそれを進める時に効率が悪く、トラブルを引き起こすことがよくあるのだ。
何ごともバランスが大事なのである。