【連載コラム】第7回/AIについて考えてみる

連載コラム第7回   AIについて考えてみる

未来経営塾を始めた4年ほど前から、塾生に対してはイノベーションやデザイン思考の重要性とともにAIの本業への利用促進について何度も語ってきた。
最近では、新聞・雑誌・ネットなどのメディアでAIという言葉を目にしない日はなく、それが当たり前になったので、ことさら強調する必要もないかもしれない。専門書籍も次から次へと数多く出版され、日々のネット情報も乱れ飛び、勉強会・講演会は花盛りの状況だ。思いつくままに雑感を述べてみることにする。

AI(Artificial Intelligence)とはいったい何か。専門家の間でも人によって解釈はばらばらだが、広義ではこんな感じだろうか。

AIとは、コンピュータを単なる機械として扱うのではなく、人間と同じようにいろいろな知識を蓄え、それらを使って何らかの判断をすることを実現させるためのコンピュータ上の試みや技術の総称を指す。

1950年代にはパズルや迷路を解くといった第1次AIブームが起き、80年代の第2次ブームでは数々のエキスパートシステムが作られたものの、一旦終息した。
21世紀に入るとコンピュータの性能アップや普及率向上とともに機械学習が身近で可能なものとなり、いま訪れている第3次ブームは、一時的なブームに終わらずにこのまま定着するだろう。もうすでにAIはIoTやロボットとともに身近な存在となり、多くの企業ではすでに生産活動や業務管理上の便利なツールとして活用し始めている。どの業界でも大きな変化のど真ん中にいるのだ。

AIを、人間に替わって仕事をやる仕組みと捉えると「AIに仕事を奪われてしまう」となるが、面倒くさい仕事や反復継続の仕事を肩代わりしてくれたり、業務の削減や時間の節約になると捉えれば「AIに仕事を助けてもらい、人間は、より人間らしい創造的な付加価値の高い仕事に専念できる」となる。

ただし、どちらの思考であろうとも、現実にはこんなことが起きている。

メガバンクではAI、フィンテック(本コラムの第2,3回で取り上げた)、RPA(ロボティックス・プロセス・オートメーション)の登場で構造改革の真っただ中であり、かなりの規模の余剰人員をどう削減しようか検討している最中だ。税理士や弁理士などの士業でさえも90%以上はAIやRPAに代替されるという研究報告がある。すべての企業のホワイトカラーの(現時点の)仕事の多くもそうなると予想されている。

では、具体的にどんな業務に使われているのだろうか。気象予報、災害対策、交通混雑や転倒転落等の事故の予測、最適な病気治療法を見つける、顧客向けコールセンター業務、効率の良い配送の道順と方法選択、人事データで最適配置をする、人材採用で書類選考をする、退職の予兆を探る、株価を予想する、顧客とのWEB会話を通して金融商品を提案する、決算資料を分析してレポートを書く等々。これらは実例のほんの一部だが、実に様々な業務に利用されていることがわかる。

タクシーの配車への適用事例で、少しだけ突っ込んで考えてみよう。どの場所にいつごろ配車すれば客を拾う確率が高くなるかは、客の需要予測に基づいて行うことになる。これには「どこで、いつごろ客を乗車させたか」という過去の需要データをAIに分析させれば良い。この場合、過去のデータが整備・保管されていていつでも分析可能な状態かどうかがカギになる。現在、多くのタクシー会社が取り組んでいる最中だ。

続いての事例は、営業日報である。営業系の企業あるいは営業マンのいる企業には、営業日報なるものが存在する。活用されていれば問題ないが、活用されていない会社が多いのではないだろうか。実は、この営業日報はデータサイエンティストやAIの専門家から見ればいわば「宝の山」だ。これをAIで分析するだけで、埋もれた顧客ニーズ、新たな営業手法の切り口や効率的な組織のあり方が発見できる。書くのが面倒だ、イヤだ、という営業マンは多いかもしれないが、書き方の方法(簡便化)も含めて考え直してみてはどうだろうか。

人の言動の記録、たとえば病院に入院している患者の言動記録がカルテとして文章で整備保管されているとしよう。それをAIで分析すれば将来、廊下で滑ったり、ベッドから転落したり、あるいは病気が悪化するのか、回復するのか、などの予兆が発見できる。また、自殺の予兆を発見する、人事部門では社員サーベイで転職しそうな社員を事前に発見する、などということにもAIは使われている。このように過去あるいは現時点のデータから将来を予測するのはAIの得意分野である。

しかし、AIにはビッグデータの中から「傾向」は分析できても、なぜその傾向値になったのかの因果関係は明確には分からないという問題点はある。ただしビッグデータがメールのような文章、つまり言葉の集合体であれば、多少の類推はできるので、その結果(傾向値)となった「理由」を文章で表現することはある程度可能のようだ。

現時点の問題は、AIという言葉が一人歩きしていて、みんなが使っているから使ってみたいが、AIを使って何をしたいのかの「何」をAIが決めてくれると勘違いしている人が多いということだ。まず本来の目的を明確にすることが大切である。次に、考える必要があるのが「費用対効果」だ。本業でやりたいことは何で、そのどこをどう伸ばしたいのでAIを使う、そこまで決めて導入しないと絶対にうまくいかないし、費用ばかりかかって効果はゼロということになる。

そもそも論で言えば、社長が勉強不足なのだ。AI技術者のような知識はまったく必要ないものの、何のために導入するのか、どこにどのように導入したら顧客満足度や企業価値がどうあがるのか、そもそも導入するだけのメリットがあるのか、ちゃんと勉強すべきである。それから、現状で利用すべきビッグデータが整理・保存されているのかも問題だし、情報システムなどのIT化が遅れているのも大問題である。やるべきことの優先順位をつけて取り組んでほしい。

一方で、もう一つの大きな問題は、AI技術者が圧倒的に不足している点である。通産省の試算では、2020年に4万8千人のAI技術者が不足するという。学校教育だけではとても補える人数ではなく、企業内で地道に育てる努力も必要なのだろう。

最近ではAIがソフトウエアを開発する能力が上がり、人が開発するソフトを性能面で上回るようになってきたという。それを知って、いずれはAIが目的に合わせてAIを作るということも有り得ると思った。そして、様々な資料を分析して経営の意思決定をやってくれるAIが登場したら、経営者も不要になる時代がやってくるかもしれないとも妄想した。そしたら経営コンサルタントも不要になり、経営塾もAI塾長が教えるということになるかも!?