【連載コラム】第12回/即興劇と台本劇のどちらがイノベーションを起こせるか?

第12回/即興劇と台本劇のどちらがイノベーションを起こせるか?

僕はジャズが好きだ。ピアノならビル・エヴァンスをよく聞く。
ピアノ、バス、ドラムのトリオでは、最初にテーマとなるフレーズを3人で演奏し、そのあと単独でテーマにちなんだ即興演奏を行い、最後にまた3人でテーマを演奏して終わる。同じタイトルの曲でも、単独の即興演奏部分はステージごとにまったく異なるので、どんな風に展開していくのかドキドキしながら聞くのが楽しい。演者が事前に打ち合わせするのは最初の何小節と終わりの部分だけである。即興演奏は、その日の演者の気分やメンバーの相互作用によって特別なきらめきが起こって、その都度変化していく。実にスリリングだ。

即興劇も同じで、その日のお題を2つ3つ観客からもらい、そのテーマに沿って数人の役者が物語を協働して作りだしていく。特に有名なのはシカゴにある即興劇団である。

この劇団の話題は本で読んだだけで実際には見ていないが、芝居の展開を書いた記録を読むだけで驚いてしまう。
最初に観客から、たとえば「オリンピック」や「教会」といったその日のお題を出してもらい、舞台に立つ10人の役者のうちの誰かが最初の口火を切って話し出し、それにともなって演技をする。

最初の一人がパソコン(らしきもの)を打つ仕草をして、「印刷!」っと、キーをたたき終わると同時に、プリンターの(ありそうな)ほうを向く。そこへ別の人が出てきて「このプリンター、壊れてますよ。」と言う。続けて、最初の人が「困ったなぁ…」と頭を抱える。こんな感じで話が進む。何人もの役者が次から次へと、その面前で起きている物語の展開を理解し、それにつなげて自分なりに演技を展開させる。彼らは次に何が起きるか予想がつかない状況にありながら、あっちこっちに飛びつつも複雑で面白いパフォーマンスを披露していくのである。

一方、演劇や芝居の多くの場合がそうであるように、台本のある劇はストーリーが決まっているので、誰の脚本と演出で、どの俳優が、役柄をどのように演ずるかが興味の対象になる。それはそれで見どころはあるが、即興劇のようなドキドキ感は少ない。

経営とは即興劇に似ている。役者(社員)全員が素晴らしい成果を生み出そうと普段から努力し、互いに刺激し高め合っていれば、どんどん面白いストーリーが展開していく。役者(社員)同士の相互作用によって、素晴らしい課題解決策も実行されながら、時には失敗もあるかもしれないが、イノベーションも起きる。

決められた台本通り仕事していてもイノベーションは起きない。ほぼマニュアルに従った仕入や販売のやり方をすべて疑い、ゼロから見直し、プロセスを組み立て直したら即興劇のように突き抜ける面白い展開が見られるのではないだろうか。

即興経営でイノベーションを創り出す。ぜひチャレンジしてみてほしい。