連載コラム第4回 運輸・物流業界とテクノロジーの進化

連載コラム第4回 運輸・物流業界とテクノロジーの進化

最新の(といっても平成27年なのだが…)国勢調査ではっきりしたのは「2015年から人口が減少し始めた」ことである。
いろんな研究機関での未来予測通り、少子化も高齢化も止まりそうにない。今後とも出生数の減少は止まらず、生涯未婚率も高くなる一方なので、どう考えても、どの業界でもこの先ますます人手不足に陥ることは目に見えている。

本コラムで取り上げる運輸・物流業界では、なお困ったことに、トラックドライバーの4割が50歳以上なのだ。特に、大型トラックドライバーの平均年齢は2016年時点で47.5歳に達している(2017年7月のデータ)。若い新人がこの業界に入って来ないことを示している。
たとえば今から10年後に、中高年層が同時・大量に退職していったときに、いまの物流網は維持できるのだろうか。非常に心配だ。
アマゾンのようなネット通販が急速な勢いで伸びてきたなかで、再配達が平均2割を占める現状もコストアップ要因となっている。最大手のヤマト運輸が自社の労働問題を起点にした料金値上げ、時間指定の見直し、配送の総量規制などで引き起こした宅配クライシスは止むを得なかったものと理解できる。

これらの諸問題を解決すべく、テクノロジーの力を借りていろいろな会社が立ち上がった。いくつかの事例を見てみよう。

一般的に運輸・物流業界はゼネコンと中小建設会社の構造と同じように、大手物流会社の下に2重、3重、4重の下請け構造がぶら下がっている。そのため最終的に、実際に物を運ぶドライバーは荷主が支払った報酬の半額程度しか受け取れない構造になっている。
この問題を解決しようと、ベンチャー企業のCBcloud(シービークラウド)が挑んだ。PickGo(ピックゴー)というスマホアプリで、ドライバーと荷主を直接つなぐものだ。ドライバーがスマホにアプリを入れると、新たな仕事の登録があったときに画面に通知され、日付や目的地などを確認して受ける仕事を選ぶ。料金は走行距離で自動算出される。貨物軽自動車運送事業の届け出が必要ではあるが、ドライバーが空き時間にスマホで仕事を受けるというのはライドシェアサービスのウーバーに近い。

ネット印刷のラクスルも荷主とドライバーをつなぐサービス「ハコベル」を運営している。ドライバーの自助努力を促し、サービス品質を維持するためドライバーが5段階評価される。平均評価が一定以下になるとそのドライバーには仕事が発注されなくなるという仕組み。ラクスルは17年7月7日にヤマトホールディングスとの資本提携を発表した。今後は共同で企業間物流の取引システムの構築を目指すという。

下請け構造と並んで大きな問題となっているのは、倉庫におけるトラックの待ち時間である。現地に到着しても2、3時間は待たされるのはザラなのだ。
中堅物流会社の川﨑陸送は、荷物を降ろす時間をスマホで予約できるシステムを開発し、待ち時間の短縮に取り組んでいる。これによって受け入れ倉庫側にもメリットが生じ、いつどの荷物が来るか分かるので、フォークリフトの事前準備ができるようになり、作業効率があがったという。
バイク便のセルートは配送アプリ「DIAq(ダイヤク=代役)」の提供を17年8月中旬から始めた。トラック運転手だけでなく、バイク、原動機付き自転車や自転車を持つ一般の人、つまり主婦や学生も登録可能だ。荷主が荷物の量や配送先をアプリに登録すると、近くにいる複数のドライバーを表示し、荷主はドライバーが提示する料金や過去の利用者による評価を参考に委託先を決める。

AIを使って再配達を減らす努力をしている企業もある。
僕が社外監査役をしているオフィス通販のアスクルでは、個人向けの通販サイト「ロハコ」を運営している。独自の物流網を使って、配送時間を1時間単位で選択できるサービス「Happy On Time」を東京・大阪の一部地域で16年8月から提供し始めた。注文からしばらくするとメールで「18時40分~19時10分ごろにお届けします」と到着の時間を知らせてくれる。さらに、到着の10分前には「まもなくお届けに伺います」とスマホ画面に通知される。このような頻繁な連絡によって不在配達の率が圧倒的に減った。業界平均で2割の再配達率が、このサービスでは10分の1の2%になったという。これは、GPSによる位置情報、道路交通情報、周囲のイベント情報、曜日、車両やドライバーの情報をすべてAIで分析して得られた成果だ。

人手不足という問題に直接切り込んだのが、「隊列走行」と「オートストア」である。
「隊列走行」とは1人のドライバーが複数のトラックを運転できるようにする技術で、先頭のトラックは人間のドライバーが運転し、その後に無人のトラックが続いて走る。無人トラックに備えるコンピュータが前を走るトラックの動きを検知して、一定の車間距離で追従する。先進モビリティというベンチャー企業がこれに取組み、18年度内には公道で初めてとなる隊列走行の実証実験を開始し、20年度には新東名高速道路で実験するという。深刻な長距離トラック運転手の人手不足に少しでも寄与できると良い。同社では自動運転バスの開発にも取り組んでいる。

一方の「オートストア」とは、ニトリの通販商品を扱う川崎市の物流拠点でのロボット倉庫のことを指す。2016年2月から稼働している。構造の詳細は省くが、導入前は倉庫内の棚の間を従業員が1日に2万歩も3万歩も歩いていたが、オートストアの導入により、ロボットが持ってきたコンテナから商品を取り出せるようになり、従業員は足を止めて作業ができる。倉庫全体で200人必要だった作業が、4割減の120人で済むようになり、人のスキルに拠る差異も出にくくなった。つまり、初心者でも効率的に作業できるようになったということだ。

物流業界では、このほかにもロボットの活躍する場面は無限にありそうだ。棚ごと運ぶ自動搬送ロボット、様々な形状のものをピッキングできるロボットなど事例に事欠かない。
自動運転技術を手掛けるロボット開発ベンチャーのZMPは、宅配ロボットを開発中だ。現状では屋内の工場や物流拠点で使う電動台車を開発し、すでに発売している。屋外で動かすためには法整備やエレベーターの制御も必要なため、2019年以降に実用化したいという(17年7月10日)。

本コラムでは、運輸・物流業界の課題についてのチャレンジ事例を取り上げてみた。
ここで伝えたかったのは、「問題のあるところに、必ずビジネスチャンスはある」ということだ。人手不足、ムダな待ち時間、そして再配達のムダという問題があれば、それを解消しようというビジネスが生まれる。使い古した言い方をすれば「ピンチはチャンスだ!」となる。
問題を提起(企画)し、それを解決する能力さえあれば起業したばかりの中小企業でも急成長できるのだ。そこになお強い成長を支える事業基盤、特に安定供給体制と管理体制を作ることができれば、その事業は長く継続することが可能となる。
問題が起きたら避けて通るのではなく、真っ向からそれを解消すべく取り組んでみる。転んでもタダでは起きない経営者の覚悟と強い意志が必要なのである。

今こそ、動くべき時だ!