特集インタビュー:塾長安本vs塾生

第4回 株式会社エヌリンクス 取締役副社長 栗林圭介氏

未来経営塾塾生OBの企業から上場第一号が誕生しました。塾始まって以来の快挙を成し遂げた第2期生の栗林圭介さんに塾長安本がインタビューします。

上場の鐘とともに感じた責任の重さ

安本
4月27日にJASDAQに上場されました。本当におめでとうございます。

栗林
ありがとうございます。

安本
僕もものすごくうれしくて、朝から値段がなかなか付かなくてそわそわしてたんだけど、無事上場を果たしました。その時どんな感じでしたか。

栗林
上場は学生時代からの夢だったんですけど、いざ鐘を鳴らしたら、それはゴールではなくて「ここから始まる」という感じでした。うれしかったのはもちろんですけど、一方で十字架を背負ったみたいな重圧も大きかったです。

安本
どんなところに苦労がありましたか。

栗林
上場までのスケジュールが思い通りに進まないことですね。かなり前から関係各所と調整しながら進めていたにもかかわらず、社内の体制とかトラブルでずいぶん停滞したりしました。

安本
上場準備する過程で社外の人たち、例えば、監査法人や証券会社とスケジュール調整したとしても、相手がうんと言ってくれないと進まないとか、他律的な問題があるので、その辺が難しかったんじゃないですか。

栗林
そうですね。相手にもそれぞれ思惑がありますし、僕ら発行体を含めてその3社でちゃんと意思統一しながら、もっとうまくやればよかったなって、今、反省しています。

安本
エヌリンクスの場合、営業の主体になるのが営業代行でしょ。それを土台にして、不動産とゲーム系の新事業がうまく芽を出してきたので、タイミングとしてはよかったのかもしれないね。

栗林
そうですね。

安本
最初の頃は研究開発で費用が先行して、なかなか利益出なかったと思うんだけど、その辺でイライラみたいなのはありませんでした?

栗林
ありましたね。ストーリー的には、おっしゃるとおり営業代行を土台として先行投資をどんどん続けていくと設定していたんですけど、思ったように新規事業で利益が出ない。証券会社も信じてくれないというところを何とか説き伏せて、スケジュールを前に進める、という日々でした。

安本
社内の役割分担、つまり誰にどんな役割を担ってもらうかの調整も大変だったんじゃないですか。

栗林
そうですね。IPOの役割分担は私が責任者としてやりました。経理財務、いわゆる管理部門を整えるのは意外に簡単でしたが、そこで決めたことを実行するのには難儀しました。なんせ拠点数、社員数が多いので、現場レベルで浸透させるのが難しい。東京で言ったことが九州では全然伝わってなかったなんてことがよくありましたから。それと、現場でリーダーとして高い目線で上場まで引っ張っていってくれる人をつくるのが一番大変でした。

安本
お兄さんである社長との連係プレーはどうでした? 他社の事例ですが、代表取締役が2人いて、最後に上場できなかったのは、お互いの力関係とかリーダーシップをどっちが取るか、そんなことで何となくうまくいかなかったという例がありました。

栗林
兄弟の関係でいうと、当社は役割分担が明確なので、うまくいかなかったことはなかったですね。社長はIPOしたいと自ら言いだしたんですけど、実務には全くノータッチでした。

安本
それは、やりたいようにやらせてもらったっていうことだから、よかっただろうね。
ところで、経営塾に入った頃の会社の状況はどんな感じでしたか。

当たり前のことを当たり前にやる・・・塾での最初の気づき

栗林
会社を始めて4~5年目ころでしたが、自分も若かったですし、勢いだけで突っ走っていろいろ乗り切れていました。売上10億円くらいになって営業拠点数も10を超えると、勢いだけではダメだと感じるようになりました。自分も変わらなきゃいけない、いったん立ち止まって勉強しなきゃいけないなと感じたタイミングで、紹介を受けたのが未来経営塾だったんです。

安本
その当時も管理本部の担当をやっていたんですか。

栗林
一応管理的な業務は私が担当していましたが、「管理本部」なんてものはなく、経理マンも当時はおらず、私と2名くらいの社員が外注を使いながらまわしていた感じです。そんな中、主力の営業代行に加えて新規事業をいくつかやろうとしていた時期でした。

安本
塾に入って最初にどんなことを感じたり、気づいたりしましたか。

栗林
「当たり前のことを当たり前にやる」ということでしょうか。例えば、月次決算の締めを早くするとか、営業のコンディションを数字で把握するとか、一定のプロセスを踏まえて採用するとか、当時は全然できていなかった。勢いでやって何とかなってしまっていたことを、ちゃんと考えて実行する、その大切さ、難しさに気付かされました。

内部の人選と異動で管理部門を編成

安本
当たり前のことを当たり前にやるには、そういう役割の人を徐々に集めていかなきゃいけないよね。中途で入れるのか、営業マンの配置替えをするのか、どんな感じで集めたんですか。

栗林
中途採用3に対して、営業マンで適性ありそうな人材を配置替えしたのが7。3対7って感じです。

安本
え、それはすごいね。普通、反対だよ。

栗林
はい、よくそう言われます。

安本
栗ちゃんに魅力があって人を引き寄せる力があるから中途採用が3で済んだってことだね、きっと。管理部門って向き不向きがあるから、経理・財務に向いてる人は、探せば社内に絶対いると思う。

栗林
はい、当時、たまたま、公認会計士を目指してた、とか、昔、税理士事務所でずっと手伝ってましたという人がいて、その人たちがちょうどその役割にはまったんです。「僕、経理の仕事いつかはやってみたいと思ってました」という具合に。

安本
まさか上場に携われるとは、っていうことだよね。

栗林
そうなんです。うまい具合に社内で人が集まりました。

安本
でも、CFOは別でしょう?その人は、中途で採った?

栗林
本当に核となる人は採用しました。今後の開示などもあるので。

安本
そうだね。IRはある程度、分かってないとできないからね。
あと、塾での最初の気付きの話に続いて、自分にとっての効果とか社業に対して効果はどんな感じだったですか。何かありましたか?

改めて気づいたコミュニケーションの大事さ

栗林
ありました。そもそも経営について勉強したい、知識とかスキルを身に付けたいという意識で塾に通い始めたんですけど、あるとき先生に「支店を回ってる?」というようなことを聞かれまして、実はちょうどその頃、臨店しなくなってたんです。ユニクロさんは、もっとでかくなっても回ってたぞ、っていう指摘をされて、うわ、図星だ、みたいな・・・。

安本
「社長、回ってないの?」って言った気がするなぁ。

栗林
はい。そこで、うちはたださぼってただけだなと、はっと気づいて、訪問してコミュニケーションとることが一番大事だなっていうことに思い至りました。当時は社員300人ぐらいで、自分が怠けなければ行けたのに、仕組みを変えれば、とか目先のスキルみたいなことに頼り過ぎてたんです。そこで先生に「コミュニケーションがあってこその仕組みだ。仕組みに血を通わすためにどうすればいいかを考えろ」って言われて、それがコミュニケーションだなと気付けたのが一番、大きかったです。

特に、社長が回れって指摘されたんで、社長がちゃんと全国に出張するようになりました。その結果、夫婦仲が悪くなるぐらい今も徹底してやってます。その頃からですかね、コミュニケーションが取れるようになっていったんです。

安本
あとは現場に行って、本人が感じることってあると思うんだよね。

栗林
ありますね。

安本
気付きは、絶対に現場に行かないと得られないからね。

現場に行って初めて得られる現場の知恵

栗林
得られないですね。一例ですけど、ある変わり者の支店長が、自分の席を部屋の入り口に置いてたんです。で、副支店長の席は一番奥にある。「何、このレイアウト」って聞いたら、僕は自分の支店の営業員とコミュニケーション取ることを自分に課しているんだ、と。入り口に席置いてたら、来たとき絶対しゃべれるし、帰るときもしゃべるでしょうって。「じゃあ、なんで副支店長の席、奥に置いてるの?」って聞いたら、入り口と一番奥の対角線上で会話したら、間にいる社員も話が分かるし、議論に参加しやすくなるって言うんです。めちゃくちゃ考えてるなと思いましたね。実際、その支店、ものすごく離職率が低いし、営業成績もいいんです。

安本
素晴らしいね。

栗林
現場に行かないと絶対分からないですね。支店長、副支店長、横並びに奥で鎮座してるより、このレイアウトいいなって感じました。

安本
他の支店もそうした?

栗林
けっこうまねしてるところあります。

安本
それはいいことだな。
あと、毎回、塾で課題が出されるでしょう。あれは、自分一人の考えでは多分できなかったと思うんだけど。課題をやるに際して、それぞれ社内の担当の人といろいろ話し合いとかしましたか?

栗林
しました。会社としてIPOを目指してたので、IPOするための仕組みづくりみたいなところに話を持っていくと、みんな腹落ちするところがあって、結構、スムーズにいきました、そこは。

安本
それはすごいな。上場目指している時って、直接の担当者とか上のほうの人は意欲も高く、エネルギーもあってがんばるんだけど、部下の人たちに熱意が伝わるのに時間がかかるんじゃない?その辺は、何かやりましたか。

栗林
はい。社長が臨店したときに、上場のこととか、上場したらどう変わる、とかこんなふうにしたいんだということを月に1回、対面で話して、社内報にも必ず書きました。僕が臨店したときは、IPOの審査の進捗状況を具体的に伝えるっていうのを意識してしました。それでもなかなか現場の人にはピンと来なかったみたいですけど、スーツ着た見知らぬ監査法人の人が突然来て、こんな資料のあれを出せこれを出せと言われ、上場が進んでいるんだ、と感じたという人はいましたね。

上場の先に目指すものは・・・・?

安本
どの会社でも規模が大きくなると、将来どうするか、どういうふうに上を目指していくのかが心配になるんだよね。特に支店長クラスが将来像を描けてないってことだけど。

栗林
今まさにその問題に直面してます。どうしてるんですかね、他の会社さんって。

安本
どこの会社もそれは苦労するんだよ。やっぱり、会社の将来像を決めて、そのためにどうすべきか突き詰めていくことしかないだろうね。社長と副社長だけでやろうとしても無理で、5~6人のメンバーでブレストするチーム作ってアイディア出しするとか、そうしていかないと上場会社といっても停滞は免れない。上場めざして一心にやってきた上場準備プロジェクトが上場と同時に終了するでしょ。すると、今まで頑張ってきたものがぽこっと空洞になってしまうんだよね。

栗林
なってますね・・・・空洞に。

安本
なってるでしょう。

上場後の夢、目指すはメガベンチャー

安本
例えば、エヌリンクスの将来を見据えて、どういう会社になっていったらいいかっていうプロジェクトをつくって、栗林さんがリーダーになってやってみたら? 上場のチームメンバーと、営業所長クラスの骨のある人、3人か4人入れて、新しいプロジェクトをつくったらいいんじゃないかな。上場目指してやってきた主力は10年後20年後、会社の屋台骨を支えるわけだから、この人たちを鍛えないと。鍛えると同時に、一緒に勉強するプロジェクト。

栗林
それはいいですね、楽しそうです。それ、久々にどきどきします。

安本
エヌリンクスの夢プロジェクトみたいな。2030年、エヌ何とかって名前付けて。上場後のプロジェクトとして第2弾、3弾のロケット飛ばすみたいな夢のあるプロジェクトをやったほうがいい。

栗林
今考えてるのがあるんですが、めちゃくちゃ大変なんです。

安本
大変な方がいいよ、やりがいあって。それはどういうこと?

栗林
今、掲げてるのは「メガベンチャーになる」です。メガベンチャーは、定量的にいうと売上1000億円。定性的にいうと、なくなると困る会社。これが今、掲げてる夢です。ゲームと不動産はこのまま伸ばしたい。あとは第4の柱をどう建てるか、です。既存事業だけだと100億どまりなんで。

安本
なるほど。ゲームは競合が多いから埋もれないように今のうちに新規の芽を育てた方がいいよね。

社員と向き合う・・・塾で自分がいちばん変わったこと

安本
塾の課題でやったことや議論したことを会社に持ち帰って話したりはしましたか?

栗林
はい、それはありましたね。先生がお話したエピソードだったかな。一時社内の流行語になるくらい使わせてもらってました。

安本
よく、塾生のみんなに言われたのは、「内部統制という言葉を初めて聞いて、問題が起きないように防止するっていうのと、問題が起きたときにすぐに発見するっていう手続きが全然、違うというのが分かりました。2回チェックするだけで、こんなに違うものなんですね」って。

栗林
そうですね。

安本
それと、後始末は金もかかるし、時間もかかるけど、前始末は金も時間もかからない。前始末さえしっかりやれば後始末をやらなくてもいいという話かな。中小企業だけじゃなくて大企業も同じなんだけど、経営階層から中間管理職までの仕事の分析をすると、半分以上が後始末に関連することをやってる。これはすごく無駄なことで、前始末をしっかりやれば、みんなの仕事は半分で済むよ、という話をしたよね。みんな、盛んにうなづいてた。

栗林
はい、それはよく引用して話してました。

安本
塾を卒業した後、自分が変わったと思ったところはありましたか。

栗林
自分が一番、変わったと思うのは社員とちゃんと向き合う機会をつくり出すというのを徹底したことですね。それと、経営理念なんですが、「変わり続ける、走り続ける。そして、楽しみをつくり出す」っていう理念、それを行動の規範というか、根底に置くように意識するようになりました。

安本
その理念って塾に入ったときからあったっけ?

栗林
確か塾の合宿の課題で作り込んだんですね。やっぱり、理念って大事ですね。

安本
それは大事だよ。今のを聞いて、すごくよくなったなと思った。みんながすっと言えるでしょう、その理念を。なかなか、そういう言葉はつくれない。自分が腑に落ちないと、言っても人に伝わらないんだよね。今のは腑に落ちるから、みんなに伝わるでしょう?

栗林
はい、これは、さすがに浸透してきましたし、この言葉を大事にするようになってきました。

議論こそ塾の最高の利用価値

安本
それはすごく大事だね。あと未来経営塾に対して、こうしておけばよかったとか。こんなことが、もうちょっとあればよかったなとか、そういうのはありますか?

栗林
もっと積極的にいけばよかったと思います。例えば、古市さんとか高井さんにもっとがつがつ聞いときゃよかったなと。あとは、加藤さんとかも聞いたら、ものすごく教えてくれますし。先生にも、もっと話しとけばよかったなって。

安本
そうだね。ガンガン行けば、絶対にそれと同じぐらい跳ね返ってくるよね、うちの塾は。そこは塾のいいところだよね。なんで、ガンガン行かなかったの?遠慮してた?

栗林
遠慮もありましたね。あの頃は本当に迷ってたので、遠慮があったのかなって分析してます。当時からもっと積極的に活用すればよかったなって。活用っていう言葉がいいかどうか分からないですけど・・・。

安本
まさに活用だと思う。そのためにみんなああやって一生懸命議論してるんだから。

栗林
今そう思えるようになったのは、自分に自信が付いたんだと思います。同じような環境にいる人たちと1年間、定期的に会って議論できたのはすごくよかった。

安本
みんな同じ問題で悩んでるんだよね。人事とか評価、コミュニケーションをどうするか、とか。

栗林
はい、表面に出てくる出方は違っても根底は一緒って感じました。同じものを共有してるなって。あの時先生が言ってたことをだんだん理解できるようになってきたのかな、って思います。あとは、今、こうやってお話させていただいて思ったんですけど、卒業生の定期健診みたいな、あのときはこうだったけど今はどうだ、とか振り返って議論すると面白いんじゃないかな。

安本
そうだね。一度そういうことやったんだよ、OB会。あれは面白かったなあ。28人来てくれたよね。全員のプレゼン聞いて、議論して、盛り上がったよ、あの時は。あと、経営幹部研修みたいなのやってくれませんかとか、たまに言われるね。

栗林
それはいいですね。魅力的ですね。

安本
やってもいいけど1人ずつとしっかり話をしないと難しいよね。1回やったぐらいじゃ、絶対に身に付かない。4回、5回とかやらないと多分、無理だと思うな。あとは、社長塾とか副社長塾みたいなことを各自が自社でやればいいと思う。塾生OBでも僕のテキストに自分の意見を書き込んで、それをテキストに使って実際に社長塾をやってる人いるよ。そういうのをやったらいいと思います。

栗林
年に1回、僕らもやってるんです。幹部集めて、専務が主体となってやる勉強会。年に1回だけですけどね。そのとき、僕も1コマ1時間もらって研修やるんですが、塾まではやってないです。

自分と向き合って考えるきっかけをくれた経営塾

安本
最後に、入塾を検討している経営者に何か一言ありますか?

栗林
IPOとか事業拡大をめざしているなら一度は入った方がいいと思います。じっくり考える時間がないですからね。あのとき塾でしっかり考えた事がその後につながってるな、と感じます。

安本
塾に来る人たちって、みんな宝の原石みたいな人なんだよね。こう磨けば光るっていうことが本人に分かっていない。栗林さんも同じなんだけど、自分が分かっていなくて、それが塾をきっかけに自分自身と向き合って観察するようになるわけだ。それで、自分の置かれている環境がこうだから、こういう状況でどう立ち向かっていけば効率的に戦えるのか、と分析するようになるでしょ。そういうことが塾を通して分かってきたんじゃないのかな。

栗林
そうですね、まさに。そういう機会としてめちゃくちゃいいと思いますね。ほんとに、おかげさまでって感謝してるんです。

安本
それは塾の効果だね。今日は長い時間、ありがとうございました。