特集インタビュー:塾長安本vs塾生

第3回  弁護士法人レイズ・コンサルティング法律事務所               代表弁護士  大濱正裕氏

弁護士としての覚悟が定まった20代の終わり

安本
まず最初に事業の概要と、起業してから現在までの大まかな変化について話をしていただけますか。

大濱
弁護士登録をして12年目、個人事業主として開業して9年目、弁護士法人を設立して2年目になります。中小企業を主な顧客として、労使紛争を会社側に立って弁護する仕事をずっとやってきました。労使紛争というと、紛争後の解決に目が行きがちですが、労務間の問題を未然に防ぐことがとても大事です。そういう予防と紛争解決を一体的に対応するという点で、お客様の評価をいただいていると思っています。また、労使紛争対応は入口商材の側面もあり、実際には、企業法務全般について対応しています。

安本
弁護士になられて、最初は1人ですよね。法人をつくって組織的に事業をやろうと思われた動機はどんなことですか。

大濱
独立開業して2年目ぐらいだったと思うんですが、このまま弁護士2名ぐらいの小さい事務所のままやっていくのか、それとも拡大路線でいくのか、すごく悩んだ時期がありました。その頃、メンタルの疲弊もあって、何かすべてがつまらなくなってしまって、ちょっとやばいんじゃないか、という状況になったんですよね。そのとき、ある親友から、少し日常から離れて、なぜ弁護士になったのか、原点から考え直したほうがいいんじゃないかって言われたんです。

安本
それで、どうしたんですか。

大濱
結局、僕がすごい勘違いしてたことに気づいたんです。司法試験はやはり大変な試験で、大学時代に家族が僕中心に3年ほどずっと物心両面から支えてくれて、勉強に集中できる環境があったおかげで取れた資格なのに、僕だけで取ったみたいな気になっていた。そうではなくて、家族みんなで取った資格だということに気付いて、それで自分の中で完全に出口が見えた感じでした。母親は12年ぐらい前に亡くなりましたが、その前に合格できたことはすごく良かったと思っています。

安本
なるほど・・・。

大濱
両親に恥じないような弁護士でいようって思うようになりました。29歳の頃です。自分の中で完全に腑に落ちて、そこからある意味、覚悟が定まりました。弁護士業界はやはり厳しい業界なので、クライアントからずっと評価される事務所になるには、ある程度の規模が必要だろうと考え、少しずつ大きくしていこうと決めました。それから毎年1人ずつ採用して規模を拡大してきています。

法律事務所を「経営者」として

安本
未来経営塾に入ろうと思った動機はどんなところにあったんですか。

大濱
その頃、僕個人に完全に依存した経営の形を、会社組織として成長させていくには体系立った学習が必要だ、と感じていました。たまたま未来経営塾と安本先生の存在を知って、ぜひ入塾したいと思ったんです。

安本
多分、最初にお会いしたときに、個人事業主は入塾はダメと言ったんじゃなかったかな・・・。

大濱
はい、思いっ切りよく覚えています(笑)。プレセミナーのとき、「弁護士も入塾できますか」って、聞いてみたんです。そうしたら「いや、弁護士とかの個人事業主はやってないよ」みたいなことを言われて、結構びっくりしました(笑)。普通の「士業」っていう形だとダメなのかな、と解釈し、「経営者」として法律事務所を運営するというマインドでやっていて、だから入塾したいんです、という願書を書きました。それで入塾することができたんです。

安本
その通りですね。組織的に運営する必要がない「士業」は、わざわざ経営を学ぶ必要がないから基本的にはお受けしないって、言ったんだと思う。でもそれを契機に考え直してもらったのは、結果的にすごく良かったと思うなあ。実際に入塾してご自分はどこがどういうふうに変わったのか、あるいは変わらなかったのか。事務所全体が変わったとすれば、具体的にどんなところか、聞かせてもらえますか。

塾の学びが顧客数、顧客単価の向上に貢献

大濱
経営塾でのシミュレーションに基づいて、全国の大規模都市で支店展開したいと決断しました。それで大阪支店を開設しようと人材も採用し1年間やってみましたが、人材を育てつつ離れた場所に常駐させることが難しく、断念しました。それが僕として残念なところです。

よかった点としては、塾の宿題で「顧問契約を明瞭化する」っていうのを考えて、実践したら、これがうまくいったことですね。「顧問契約」というと、実際何をやってくれるのか分からない事務所が多いのですが、どういうメニューでどういう価格なのかというのが、お客さまに明確に分かるようにしました。そうしたら、全社の顧問料単価が2割以上も上がり、今では1社平均7万円くらいになりました。明瞭化することで、顧問数の増加にも寄与したし、顧問料単価の増額にもかなり寄与したので、これが塾で学んだ一番大きな成果でした。一度お客様と決めた顧問料を上げるはすごく難しいといわれていますが、この施策によって、クライアントの顧問料の増額案件はすごく増えました。5万円だったけど、8万にするとか、10万にするとか、すごく増えたので、単純な顧問数の増加だけじゃなくて、本当に単価がどんどん上がっていくという効果がありました。

安本
それはすごいですね。商品力を磨くという意味では、大濱さん自身だけじゃなくて、全員が同じように磨いて、同じように質を高めないといけない。その辺は組織的にどう対応されてるんですか。

教育は両刃の剣

大濱
職員全体で質を上げるというのを体系だてて行うのはかなり難しいですね。弁護士の場合、OJTが教育のメインなので、私ともう一人いるパートナーがどちらか必ずついて指導しながらやっています。とはいえ、僕らも2人で何十社の案件をずっと見続けることはできないので、限界があるというのが実情です。年始にそれを自分の中で経営課題にして、教育の体系書みたいなものを作らなきゃいけないなとか、いろいろ考えてるんですけど。。。一人前に育つと独立しちゃうし。。。かといって育てないという選択肢はありえないし。。。なかなか難しいですね。

安本
そう、そこなんです。だから、育って独立してもいいけど、でも、うちで一緒にいようよ、その方がいいよって相手も納得できる何かがないと巣立っていってしまう。

大濱
独立できる力があっても残った方がいいと思える一つの大きな要素は、尊敬できる人がそこにいるかどうかです。だから、優秀な人が応募してくればくるほど、彼らに、この事務所には何もないなって思われたらおしまいなので、僕自身の成長する欲求にもつながりますね。この経営塾に参加したのも、自分に負荷をかけてこそ成長もできると思ったからです。そういう姿を部下のみんなが見て、この事務所にいたら、もっと勉強できるというふうに思ってもらえたら、という気持ちです。

安本
この弁護士法人に勤めていると成長できる、そういう場だってみんなが認識してくれるといいよね。ないものをつくろうと思って、うちの塾に入ってきたわけだから、そういう意味では、まったく新しい弁護士法人の姿をつくってほしいなって思うんですよね。それぞれの法律で専門家を育てて、難しいことがあったらこの人に聞けばいい、っていうようなやり方もきっとあるのかもしれないね。

大濱
そうなんですよね。私自身は労働関係にかなり知見はあると思うんですが、それ以外の知的財産であるとか、金商法とか、マニアックな法律になってくると、とてもオールマイティとはいえないので、それぞれに詳しい弁護士をパートナーに入れるといったやり方が必要になると思います。結果的には総合法律事務所という形ですね。今でもそれをうたいたいところではあるんですけど、まだまだ僕の力が足りないなというところですかね。

塾は自ら「気づき」を得る場

安本
なるほどね。ところで話を戻すけど、卒塾されてから、こんなことをやれてなかったなっていう悔いとか、不満とか、ありますか。

大濱
経営塾に対する不満は全くないです。教えてもらう場だとは僕自身はまったく思ってなくて、自分で気付いて自分で学ぶ場だという認識なので、塾に対して悔いとか不満を感じるという前提がそもそもないです。自分のせいですから全部。

安本
僕はそんなにすごいことは教えられないけど、一通りのことは体系の中で教えてるつもり。その過程でみんなで気付き合ってほしいんだよね。それは、ある程度うまくいってるのかなっていう気がしますね。

大濱
それから、今後の塾のあり方に関しては、個人的には、集まる人の意識がすごく大事なのかなと思っているので、広く門を開くっていうよりも、議論の前提として、意識の質というか、レベルを担保してもらえたら、と思ってます。

安本
1期も2期も3期も、現役塾生であるうちは無我夢中で、社員と相談して、やっと宿題書けました、みたいな感じなんだけど、卒業してちょっとたつと自分を客観視できるようになるんだね。それもまた一つの成長だから、そういう意味では、経営塾は普通の経営者が自分で気付いて、一段階高い人間になっていってくれる場なんだろうね。

事務局
ところで、安本塾長ってどんな人ですか。

大濱
(考えながら)そうですね。。。すごい洞察力を持った方ですね。洞察力が高過ぎて、いろいろ見透かされてる感があるから、たまに怖いですよね。

安本
それは思い過ぎだよ。

大濱
いや本当にそうです。

安本
人事の講義の中で、コミュニケーションの話をしたと思うんだけど、部下が言ったこととか、部下のやってること、やってないことにどれだけ気付くかっていうのが一番大事なんだよね。やってないことがあったら、なんでやらなかったのって言えるし、やってたら、それを褒めることもできるし。気付いてほしいんだよね、部下は。絶対。何かあったら、そこを一緒に感じてほしいし、一緒に考えてほしいし、味方になってほしい。時には敵にもなって、試してほしいかもしれないし。会話ってそういうことのきっかけになるはずだから。

大濱
ちょっとした違和感みたいなものをすごく指摘されることが多くて、そのたびすごいなって思わせられます。あとは、すごくおちゃめな先生ですよね。本当に。特に飲み会になると。

課題に費やす時間は「経営」への取り組みそのもの

安本
最後に入塾希望の塾生候補者に、こんな気持ちで勉強してほしい、とか、こんなことをやってほしいということはありますか。

大濱
プレセミナーの時などに、宿題がすごく大変じゃないかって怯えていらっしゃる人とか、時間すごく取られるとか、あとは、せっかく願書を書いても面接で落とされるんじゃないかというお話をよく耳にしたんですけど、そもそも、経営塾で出される課題っていうのは、全部、すべからく、ご自身の経営に役に立つ、絶対必要なものだらけなんですよね。だから、塾の宿題に時間がかかるとかっていうけど、自分の仕事に時間を使ってるのと同じなので、別に何もマイナスじゃないし、むしろプラスでしょって言いたい。それを体系的に、自分の意志で、毎週日曜、自分で勉強しようと思ってできる人ってほとんどいないと思うんですよね。司法試験もそうなんですけど、期限が決まっていて、この月までにこの勉強しなきゃっていうスケジュールが決まってるから、継続的に体系的な理解ができるんだと思います。

安本
そうかもしれないね。

大濱
本当にこの経営塾ってよくできてるなと思うのが、ひと月に1回ずつ、あと合宿が2回あって、課題をやって、講義を受けて議論して、ということを1年間続けますよね。課題をやるのが予習で、講義に出て、その後、実際に経営の場でアウトプットしてみるわけです。で、さらに次の課題でまた勉強して、またアウトプットして、という反復ですよね。それを1年間、継続していくことによって、確実に何かしらの気付きやプラスになるものがあるはずなんです。だから、そこに関して時間を惜しむっていうのがまずよく分からないですね。時間がネックっていうのであれば、遊んでる暇があるんだったら絶対塾に出たほうがいいですよって僕は言えますね。

「一生もの」の仲間との出会い

大濱
あとは、本当に役に立つのかと思われる方もいらっしゃるのかもしれないですけど、基本的に教えてもらうっていう意識だと、そういう発想になると思うんですね。気付きが得られる場だっていうふうに考えると、スタンスが変わって関わり方も変わると思います。僕が一番良かったと思うのは、経営の内部事情とか、僕の場合は人件費の詳細まで全部出したりして、そういうところまで突っ込んで話せたことです。そこまで話せる経営者の仲間なんていなかったですし、それを全員が共有して、同じ悩みを一緒に考えて、一生ものの仲間ができたっていうところが、すごく大きかったですね。普通の経営者の交流会ではそういうことってないと思うんですよね。なので、少しでも気になってる人は飛び込んでみたほうが、僕は絶対いいんじゃないかなと思っています。

安本
なるほどね。いいお話をありがとうございました。

大濱
いいえ、こちらこそありがとうございました。