第2回 株式会社ブルームダイニングサービス代表取締役 加藤弘康氏
第2回目は、第1期生の加藤弘康氏に塾長安本隆晴がインタビューしました。
事業概要:2006年創業。主力の「がブリチキン。」を2011年2月に開店、2014年からフランチャイズ展開し、現在は直営店10店舗を含む62店舗を運営。新たな業態へのチャレンジ店舗を含め80の飲食店を経営。
運を引き寄せた強気の立ち上げ期
安本
「がブリチキン。」がこれでいけると思ったのは、始めて何年くらい経った時ですか?
加藤
創業期は資金的にも当然余裕がないですから、とにかく無難な中にちょっと差別化をして手堅く勝つという形で業態を選定し、6~7店舗作ってきました。経営が軌道に乗り始めた6年目の頃、初めて遊び心で作ったのが「がブリチキン。」なんですが、これを作ったときに、いけると思ったんです。
理由は三つあって、一つは、コックレスでキッチンに職人はいらないということ。二つ目は、世の中に焼き鳥屋はたくさんあるけれど、からあげ専門店はない、ということ。三つ目が収益性で、加盟店さんにしっかりと利益を確保していただくっていうことを考えると、最低でも20%の営業利益率が必要。いま直営店は平均25%取れていて、一号店を立ち上げたときにすごく手ごたえを感じ、一気に面を広げようということになりました。
安本
でも、これはいけそうだと思って広げようとしても、人がついてこないじゃないですか。それはどうやって?
加藤
それはもう運としかいいようがないですね。スタッフは忠誠心だけはものすごく強い。それは僕が強烈なワンマンでやってきた、いい部分でもあり、後々の課題でもありますが…。やっぱり理念とチームワークをすごく大事にしていて、創業から人と人のつながりを大事にしてきました。理念浸透の仕組みづくりや社内イベントに力を入れ、結束力は相当強かったということだと思います。創業から5年で10店舗出店を目標にしている中で、2年で3店舗、3年で5店舗出店し、6店舗から12店舗にするのに、わずか8ヶ月でした。ここが勝負時だ、っていうのがあって、人が足りないことよりも、事業としてのチャンスをとらえたいという思いがあり、現場も必死になってくらいついてきてくれたんじゃないかと思います。
成長にともなって立ち現れた組織作りの壁
安本
そんな中で、この経営塾に入ったときの状況はどんな感じだったんですか?
加藤
業績は、ある意味苦しい状況を乗り越えて、利益体質は取れるようになっていました。入塾動機は、経営を基礎からちゃんと学びたい、ということでした。
安本
塾に入ってみて、最初どんなことを感じたり、気づいたことがありましたか。
加藤
今でも一番すごく活きているのが、組織作りの考え方です。僕は営業現場のたたき上げなので、本部は利益をうまないもの、できる限りコンパクトで軽いものが健全だという認識があって、最小コストでやってきました。そうすると、僕も含めて幹部が何役も中途半端に担うという状態が続き、手詰まりになってくるんです。そこで先生に言われたのが、バックオフィスの強化が大事なんだ、ということ。営業が攻めるためには管理の守りをまず先に固めないといけない。幹ばかり伸ばしても、健全な状態で成長していけないということを痛感したのがいちばん大きいです。
安本
一度「内部監査室を作りたいんです」と相談されたよね。あれはどういうきっかけだったの?
加藤
僕の言っていることがちゃんと現場まで正しく落ちているか、組織の階層の中でどこがボトルネックになっていて、どこに問題があって円滑に組織が回っていないのかっていうのを、内部監査室を作ることで健全化が図れるんじゃないかってことで検討したんですけど、結局うまくいきませんでした。
身をもって知った管理部門編成の難しさ
安本
あのとき、何人かの幹部候補生をどうやって鍛えましょうかみたいなことも言ってたよね。どう育てたらいいのかとか、役割分担もなかなか難しいって。
加藤
僕の割り切りの中では、営業周りに関しては、要である部長、課長などの役職者は、ブルームを知っている、歴史を知っている、そういう現場からのたたき上げで固めていきたいと。でも管理に関しては、僕自身もそうだし、みんなも畑が違うので難しい。スペシャリティを持った人をそのポジションで採用するっていうことですよね。当初は、今いる人材の中から組織に当てはめようとしたんですけど、それはうまくいきませんでした。
安本
中途で何人か管理部門の人を採用したって言ってましたよね。ちょうどそのころかな。
加藤
それがですね。採ったけど上手く行かないことが何度もあって、やっぱり面接だけでは人は見抜けないです。
安本
そうだよね。
加藤
営業だと、大体のスキルとかは、話せば分かります。どれぐらいの商売気質を持って今まで挑んできたかとか、この子だったらすぐに店長になれるとか、売上が上げられるとか大体分かるんですけど、管理の人で、こんな経験してますとか、こんな資格持ってますと聞くと、みんなすごい人に見える。で、一応経営課題を伝えて一緒にやっていきましょうと言って入っていただくんですけど、まったく機能しないという状態が何度か続いてしまい、それがもうストレスでしょうがなかったです。
安本
今はどうしてるんですか。
加藤
今はですね、ほんとに僕は運に恵まれてまして、CFOと人事総務と購買物流の担当とか、今までその分野で活躍してきた人材が加わり、監査役も入ってきて、磐石になってきてます。やっと安心感が出てきました。全開にアクセルを踏める喜びですね(笑)。
あえて降格も辞せずに臨んだ人事
安本
最初、管理部門で失敗したって言ってましたけど?
加藤
管理部門に限った話ではありませんが、過去には降格といった、厳しい意思決定をしたこともあります。
事務局
降格はすごい大変じゃないですか。相手に納得させるだけの基準は作ってたんですか。
加藤
正直、向き合って話をするしかないですね。常々言っているんですが、役職って役割を担うってことで、それに見合った、それができての報酬だし、それができなかったら、当然その役から外れるべきです。今できること、今もってるスキルで何に貢献できるかっていうことで立場は変わるっていうことをずっと言ってきています。みんなの成長のために会社があるわけじゃなくて、会社の成長にみんなが合わせていくっていうことです。ただ、フォローが要ります。降格だからもうダメっていうことではなくて、いつでもチャンスはある、っていうのは伝えます。特別扱いはできないから、公平にあるべきところだと思うので、そのあたりはちゃんと向き合って話す。それでも納得いかない人は辞めていってしまいますが…。しょうがないですよね(涙)。
FC展開とその後のシナリオ
加藤
「がブリチキン。」で一気に面を取っていこうという状況では、資本にも限界がある中、とにかくスピードを出そうとすると、フランチャイズのスキームを活用する以外になかったですね。今後は、直営店の出店も更に加速し、FC展開との比率バランスを取りたいと思っているんです。ユニクロさんが当初FC展開していたけど、途中で直営店のみにしたとか、現在ではFCで独立できるのは、社内で貢献度が高い能力のある社員に限定されているような仕組みづくりを参考にしていきたいです。
事務局
どのタイミングでFC比率をバランスしようとしてるんですか。
加藤
現在は直営をどんどん増やしFCは社数制限をしています。一方で、資源が分散するので今は直営店は愛知県外には出ないようにしています。やっぱり名古屋に根付く企業っていうのを一つの売りにしたい。そこから上場を機に全国に打って出ます、というふうに持っていきたいなっていう絵を描いています。
安本
僕がちょっと気になっているのは、飲食店はお客様が飽きると来なくなってしまうこと。「がブリチキン。」を飽きさせず、本質を変えずにどう変化させていくかという問題。それと、値付けの問題もある。上場会社の飲食店でも、値上げしてもお客様がついてくるような業態とそうでない業態とがあって、ちょうど明暗がくっきり分かれる時期にきています。価格帯については、どういうふうに考えてる?
加藤
僕は今、2200円から2500円の客単価を守っていこうと考えてます。その中でいかに付加価値をつけるかっていう中で、商品開発をしたり購買を見直したりしています。日常食にフォーカスし、食べ飽きないもの、食べ慣れているものをテーマにして、いかにブランディングしていけるか。ここが課題です。
安本
なるほど。
経営塾の真価とは・・・・?
加藤
経営塾の宿題を振り返って本当に改めて思うんですけど、当時はあれしたいこれしたいというのが先行して、結果、自分で全部やらないといけなかったんです。やったあとで、自分の首を絞めるみたいなことを何度か経験して、経営っていうのは、どんどんシンプルにしていかないと組織が育たないって思う。僕の感覚とか、僕の感性だけで未来を切り開いていくと、次に先回りして何をすべきなのかっていうのが下の人たちには伝わらない。全部僕が指示出しをしていかなきゃいけないとすると、僕もしんどいです。部下が主体的に動けないっていう弊害が出るので、方針はシンプルになればなるほどいいなって正直思います。
安本
加藤さん見ていると、権限委譲がうまいなと思うんだよね。
加藤
基本、権限委譲なのか、丸投げなのか、ということはありますけど(笑)。ただし、ここは重要、みたいなところ、商品開発とかブランディング、値付けとデザインといった部分で、特に事業の柱である「がブリチキン。」だけは、全部僕が見ないと、気が済まない。
安本
それは大事だよね。ところで、入塾した結果、どんな風に自分は変わったと思います?それともあまり変わってない?
加藤
本部コストの捉え方が大幅に変わったということと、あれがしたいこれがしたい、という自分の思いよりもいかに組織と戦略をつなげるかを考えるようになりました。なるべく自分のワンマンみたいなところをなくしていこうと、でもなくしすぎちゃダメだ、要はバランスなんですけど、そんなことをすごく考えるようにはなりました。社内に経営を語れる人間が増えてきて、冷静さが保てるようになったというのも大きいかもしれないですね。
安本
塾のとき僕がよく言ってたのは、自分を客観視しなさい、っていうこと。自分の話がどういうふうに部下に伝わってるかってことを客観的に感じながら伝えろってことも言ったと思うけど、そこはどうです?
塾で変化した自分
加藤
そうですね。まず会議がすごく変わりましたね。9割僕がしゃべってた会議が逆転したっていうのは、いちばん大きいですかね。今までは自分がしゃべらないとどうにもならないっていう感じで。うまくいってるところといってないところを見極めながら、雲行きが怪しいぞってなると、アラート鳴らして、みたいなことを全部やって、部下が気づいてなければ何故そうなのかっていうのを全部肉付けして説明して…結果自分が9割発言して終わってたっていうふうになる(笑)。
事務局
それが、経営塾でガラッと変わったと。
加藤
やっぱり今は全然違います。本当に伝えたいことだけを伝えるということ、本当に譲れない部分だけを口出しするだけになりました。そこは大きく変わったと思います。前は、部下が反論なんかしてきた日には3倍返しにしてましたから(笑)。無言で圧力かけてたと思います。
安本
それが、経営塾で変わってきた?
加藤
聞く耳は持てるようにはなりました。ある種、許容範囲は広くなったと。
安本
余裕ができたのかな?
加藤
ゆとりや冷静さは保てるようになりました。逆に余裕ができたことで、悩みすぎるっていうか、考えすぎる悩みもできましたが…。
安本:未来経営塾の1期生として1年間やってきて、今、思い返して、あの時こうすればよかった、あるいは、不満みたいなものはないですか。
加藤
不満はないです。後悔でいえば、もっと深い議論というか、もっと深いつながり、というか、自分からももっと周りの受講生に対して突っ込んでいけたんじゃないかなというのはあります。自分自身が置かれてる環境が変わってきたからだと思うんですけれど、今までヒットブランドを作ることとか、自社の業績をちゃんと作っていくという、そこだけにしか興味がなくて、異業種にまったく関心がなかったんです。それもあって、興味や関心のある人の発表はすごく前のめりで聞くんですけど、興味や関心のない業種の人だとあんまり真剣に聞いてないっていう自分がいて。今の自分だったらもっと深く関心を持って、正解を知りたい、とかその答えを導きたい、と真剣にやると思います。
塾の宿題で他社の有価証券報告書を見て分析して、熟考して、自社と比べて…みたいのがあって、初めてそれに触れて、最初はなんかいやいやながらやり始めたって感じですけど、今は自分から業種を問わず上場企業の株価の動きとか、なぜそれが変動したのかとかいう興味が出てきているっていうのは、自分の置かれている環境が変わってきてる、っていうことだと思います。
企業にとっての未来経営塾適齢期とは?
事務局
自社がどういうステージの時に経営者はこの塾に来るのがいいか、ということについては何かありますか?
加藤
創業期やスタートアップ期はやっぱりちょっと早いなという感じがするし、経営者で拡大・成長思考がない人も向かないかな。飲食業でいえば、10億円前後のところがいちばん向いていると思います。まず創業期はがーっと売上をつくって成り立たせるタイミングだと思うんで、そこで経営塾に来るとちょっと離れすぎているんじゃないですかね、自分の置かれている状況と。求められる宿題とかも含め、講義でなされるものにすごくギャップを感じるんじゃないかと思います。宿題を振り返ると、「強み」「弱み」を考えたり、中期経営計画を宿題で作ったり、あれはすごい良かった。うちは今12期なんですが、8期に立てた数字が、ほぼその通りにいってるんです。なので、すごく大事だなと。あと、「強み」「弱み」が変わって行くっていうか、「強み」だと思ってたのが「弱み」になったり、全然できてないってところが逆にいろいろ解決して「強み」に移行しつつあったりとか、そういうのはすごく発見がありました。
事務局
加藤さん、やっぱり優秀ですね~。中期計画通りにいくなんてありえないなあ。
安本
経営計画というのは経営者の意思だから、意思をどうやって発表して、部下に伝えて具体的に動かしていくのかっていうことなので、それをその通りやれるっていうのはすごいと思う。
それから「強み」と「弱み」の整理だけど、「強み」を突き詰めていくと、結構リスクがみえてくるんだよね。ほんとにこれは「強み」なのかっていうことを10回ぐらい問い直すと、これダメかもしれない、って思うようになって、常に「強み」はもっと強くしなきゃいけない、「弱み」は強みに変えなきゃいけないって思うようになるんだよ。あれを整理できるっていうのはすごくいいことで、毎年つくるとたぶん形が変わってくると思うなあ。で、それぞれの部署でSWOT分析ができるんだよ、ほんとうは。ああいうモノの見方というのは、部長でも課長でも下の人でも、そういう見方をすべきだっていうのを教えておいたほうがいい。だんだんランクが上になってくると、鳥瞰、つまり鳥の目のようになっていかなきゃいけない。社長は「全体最適」の眼を常に持ってなきゃいけないけど、部長とか課長とか係長は、それぞれの「部分最適」になっちゃう。でも会社全体としては社長が考えてる「全体最適」の中での「部分最適」がいちばん大事なんだよね。それが分かるためにも、さっきの各階層別のSWOT分析を、一度みんなで、わいわいがやがやでもいいから、できが悪くてもいいので、やったら面白いかなって思ってて。
事務局
最後に、入塾希望の人に対して何か一言あればぜひお願いします。
加藤
まじめに経営したい、という人がやっぱり受けるべきです。テクニックとかスキル的なことではなく、本質に入っていくので、より深掘りしてかなきゃいけない。苦痛といえば苦痛なので、それだけの意識がないと、ただ大変な塾で終わってしまう。本当にいい会社にしたいとか、強い会社にしたい、という強い意志があるなら、僕は絶対にいい塾だと思うので、ぜひ、活用していただきたいなと思います。