第1回 株式会社ネバーセイネバー代表取締役 磐井友幸氏
「未来経営塾」とはいったいどんな場なのか?
それをお伝えするには、過去にここで学んだ塾生に忌憚なく語っていただくのがいちばん。
第1回目は、第3期生の磐井友幸氏に塾長安本隆晴がインタビューしました。
まずは、塾との出会いから対話が始まり、次第に、現在ネバーセイネバー(以下NSN)の直面する経営課題へと話が展開します。
手持ち現金23万円で始めたECが30億円のビジネスに
安本
まずは事業の内容と入塾の経緯から聞かせてください。
磐井
インターネットでのレディースアパレル販売、これだけです。Eコマースだけなのは起業の時点で手元に資金がなくて、店舗を構えられず、最初の現金23万円でヤフーに出店しました。個人事業主として2年それをやって、大学卒業時に法人登記しました。1期目9ヶ月で8000万円、2期目5億円、3期目15億円、と売上が伸び、本格的にEC出展して順調に成長しました。入塾は30億円の手前で伸び悩んでいた時期です。実際には、何が問題か分かっていなくて、そのうちまた伸びるだろう、とあまり深くは考えていなかった。ちょうどその頃、未来経営塾に誘われました。でも、もともとそういう勉強とか好きじゃなくて、聞こえない振りしてました。少しずつ考え始めていろいろ改革し始めた時、安本先生に会いました。何にも考えてなかった経営者が、学ばなきゃいけないタイミングだと本心で思った頃でしたね、変えなきゃいけない、と。
「学ぶ必要」を感じ始めた頃に塾に出会った
安本
もやもやしてるときにそういう誘いがあると、これをやれば確信持てるかもしれない、という動機付けになることはありますね。
磐井
タイミングがよかった。それより前だったら受け入れられなかった。何もしないで30億くらいまできたので、たまたまうまくいっただけなのに自分はすごいんじゃないかと勘違いしてました。まずいな、学びが必要と感じ始めたタイミングだった。それで、塾に入ってみて、安本先生の最初の指摘が図星だったので、それでもう、とりあえず塾でまじめに取り組もうという気になりましたね。
安本
僕が何を指摘して何が図星だったの?
磐井
最初の発表のときに、経営者はどんな状況であっても、与えられた条件で最高の対応ができるように常に準備していなきゃいけないのに、何であなたは自分の都合ばかり言うのか、っていうことを指摘されたんです。経営者なら、何が起こるかわからない時、いろんなことを予測して、考えて、準備して、どんなことにも常に対処できるようにするのが当たり前なのに、自分の都合ばかり並べていて、そこがおかしい、と。ハッとしました。結局僕は自分の都合とか自分の条件ならうまくいくっていう話しかしていなかったな、と。たとえば、発表は5分という設定のとき、いや10分あればもっと言えたんですよ、とか、もっと準備期間があればもっとできた、とか。先生に言われて、確かにそうだ、自分が勝てそうなシチュエーションだけを想定して話してたと気づかされた。そんなことを言われたことなかったんで、正直はっとしました。怖いな、この先、毎回こんなこと言われるのかな、ヤバイな、とほんとに思いました。
共同経営で会社を舵取りする良さ
安本
当社はCEOが2人だけれど、共同代表を擁している会社はうまくいってないところもある。うまくいくのは、守備範囲が違うとか、片方がゆっくりで片方がせっかちで、でもどこかで波長が合う、とか、そういう感じだと長く続くようだけど、その辺はどうです?
磐井
もののとらえ方の切り口が違うのが「おいしい」ところで、1個の出来事が起こっても2つの側面で協議できて、そんな風に思わなかったな、という発見があって面白いですね。
安本
それはいいことだね。
磐井
自分が気づかないことを、経営者として同じ温度と熱量で見てくれる人がいる、ってものすごく恵まれてるんじゃないかなと思ってます。
よくないときこそお互い徹底的に言い合う
安本
会社の経営は、一気に伸びたり、停滞して、また伸びたり、と波があるものだけど、二人三脚で経営していると、お互い触媒のように影響しあうものなの?
磐井
上向きのときはうまくいきます。悪いときにどうするかがすごい大事。悪いときは必ず経営者に原因がある。そこを指摘しあう。正直言いにくいこともあるでしょう「やる気なさそうに見えるよ、少なくとも俺には」とか。でも言い合うんですよ、お互いに。
安本
そこは2人だと、お互いに客観視できる。すごく大事だね。ワンマンだと、誰も言ってくれる人がいない。鼻高々で自分の言うことが世界一みたいになっちゃう。
ここから絶対伸びる、という確信の芽生え
安本
特徴的なワンマン経営者の人ほど、部下から見るとついていきにくいことがよくあるけど、思いがなかなか伝わらない。部下に噛み砕いて伝えてくれる人がいない、と言う人が多くて、そのあたりはどう?
磐井
実は、今まさにその問題に直面していまして…。
世界一になるぞ、とか僕が熱くなりすぎると、社員には、重たいし、キツイんですよ。共同経営者と2人で盛り上がっちゃうとこれまたやっかいで、まったくついてこられない。ちょっと迷ってる社員なんかはそれで叩きのめされちゃう。意図せず、つぶしちゃうことになる。咀嚼して伝えてくれる人がいない。それがすごい問題で究極に悩んでいた。先日、新しく入ってきたある社員と、問題点や耳の痛い話も含めて僕が正さなきゃいけない点、会社としての課題について徹底議論した。それをその社員が咀嚼して社内に伝えてくれたんです。十何年1人もそういう人材がいなかったんだけど、間に入ってくれる人ができたので、ここからネバーは伸びるはず、必ず進化するな、と思えました。
経営者としてのコミュニケーション術とは・・・?
安本
経営者と最近よく話すのは、人を採用したときに、その人たちが怒られ慣れてない、っていうこと。家でも両親に怒られたことがない、スマホとしか会話してない、指摘するとしょげちゃう、精神的にストレスになって診断書持ってこられちゃうとか、そういう話がすごく多い。それを前提に教育制度も見直さないといけなくなってきている。
磐井
当社は僕より下の世代の女性が多い会社なんで、あまりきついこと言えない。一方的ではダメで、きちっと一人ひとりに合うように方法を変えて、ケアしながら、咀嚼して真意を伝えないといけない。一見面倒くさいと思えても必要なことですね。
安本
ブランドがたくさんあってこれからも拡大傾向にあると思うけど、それぞれ女性がトップになっていく状況でしょう。女性に任せて、磐井さんが期待するような成長を遂げていけばいいが、壁にぶつかる場面も出てくるのでは?そこでどうするか。その人は相談に来る?
磐井
僕のところに来る人もいれば、他の人に行く人もいます。
安本
他の人に相談したことは磐井さんのところに上がってくる?
磐井
役員会のメンバーでそれは共有できていますね。
安本
役員会には女性はいるの?
磐井
今はいません。それが問題だと認識しているので、来期の頭までに女性の執行役員を必ず一人作ります、と宣言しました。
安本
いろんな多様性ある人が入ってくるようになって、会社はそういう多様性に対応しなくちゃいけない。女性がブランドマネジャーになって一国の主として壁にぶち当たったときに、上司や社長になかなか相談できないことはよくある。そういうのを感知してあげられるのは女性の役員が適任なので、やっぱりそういう人が必要じゃないかな。
磐井
半分以上女性の会社なので、役員も同じ比率で女性がいた方がいいはずなのだがあてもなくて今悩んでます。議論の場に女性が必ずいる、という状況にしていかないといけない。
安本
女性は役員になりたがらないのかな。
磐井
女性ブランド長は「クリエイター」なんですよ、要は。クリエイターの行く先って役員じゃないんです。種族が全く違う。マネジメントができないしやる意味もないという感覚。うちでは、残業の枠を決めてそんなに残業できないようになっているんだけど、クリエイターの人たちは、そもそも時間なんか関係ない、残業代なんかいらないからとにかくオフィスにいられるだけいさせてくれ、と。
安本
僕は仕事の棚卸しという話をよくするよね。時間かけた方がいい仕事ができるかというとそうでもなくて、やり方さえ変えればその半分の時間で効率よくできるかもしれない。
磐井
アパレル、クリエイティブに関わる仕事をやっていると絶対突き当たるところです。女性のクリエイターたちに仕事の棚卸しなんて話はもはや通用しない。そういうロジカルな話をするとその瞬間に反発が起きる。
安本
自分では気づかない場合が多いから、本人が気づくまで話をするといいんだよ。社長は聞いてるつもりでも、実は半分以上は自分がしゃべってる。8割は相手に話してもらって、2割くらい意見言って、あとはじっと聞くほうがいい。
磐井
修行してるんだけどそれがぜんぜんうまくいかない。熱くなってつい言っちゃう。
安本
自分で気づくように仕向ける、っていうのが、僕のコンサルの最終目標。社長に何か言って対立するじゃない、でも1週間位すると僕の言ったことを半分くらい取り入れてくれてるんだよね、昔から考えてたんだって。最初すごく対立しても、少しずつ分かってくれて。初めから意図してそういうことはできないんだけど、後で気づくと取り入れてくれてたり。部下に対して話す時もそれと同じだと思う。
磐井
すぐれた経営者っていうのは、咀嚼して、後で冷静に振り返る力があるんですね。
議論する側に問われる「質問力」
安本
塾の進め方として、僕が1時間くらい話をしてその後発表したり、質問しあう、という仕組みややり方はどう?
磐井
ぼくはそういうやり取りが好きなのでいいと思う。ただ質問するにも「質問力」があって、それが備わってないと議論が活性化しない。一番大切なのは議論が盛り上がることなので質問する側が問われる。業界や専門分野が違っても、根幹のところ、一般化した形で突っ込んだ質問をする、そこまで突っ込むためにも、やっぱり自社の分析を深くやっておかないとそういう質問は出てこない。正直もっと議論は熱くなったらよかったかと思う部分もある。せっかく覚悟決めていく場なので。
安本
1年間塾で経験したから今みたいな気付きがあるんだと思う。講座の1~3回目くらいはあまり突っ込んだ議論になっていなくて、4回目くらいから議論に深まりが出てくる。
磐井
自分の発表だけで終わってしまうことがあったがそれはもったいなかった。重きは発表じゃなくて議論にあるんで。異見、異なる意見を言える仲間や役員は必要だなと思う。そこに学びと気付きがものすごくあるから。間違ったことでも通っちゃうようになるのは絶対止めなきゃいけない。経営者は実は言われることに慣れてなくて、基本ほめられることしかないので何か言われると落ち込んじゃうんです。何か言われて、受け止めて反省して改めるって初歩的だけどすごく大切でそういうことが必要。
安本
経営者自身もそうだけど、自分がこう言うとこの部下は落ち込んじゃうなあ、という時の対処に役立つよね。
磐井
自分が「言ってもらえる」環境を作らなきゃいけないが、なかなかそれができてない。
いちばん大きな学びは「覚悟」ができたこと
安本
入塾の効果についてはどうですか?会社と自分が変わったか?変わったとすればどんな風に?
磐井
いやそれはすごい変わりました。僕の場合、ベンチャーで創業して、経営は実戦で身につくものだろう、みたいな固定観念があって、学びとかいらないよ、とか思ってました。でもやっぱり実戦でも学んだほうがいいということが分かりました。掛け算になるんで。学ぶべきものは学ばないと身につかない。塾を終えてみて、学んだことを実際に活かせているし、成長した、と感じています。成長、進化したがゆえに別の課題が見つかったし、課題の質も高くなった。学ぶことと正面から向き合って気付いたこともありますし、課題解決して終わり、ではなく、一生続くんだという覚悟ができました。僕にとっていちばん大きい学びはそこかもしれない。
安本
学ぶことのなかには、自分で考えるってことが入る。本を読んでると学んでるように見えるけど、それは単に知識を吸収してるだけで、読むことによって、それは違うとか、もっとこうしたほうがいいとか、考えるようになる。それがものすごく大事なことなんだけど、磐井さんはほんとによく変わったと思う。
磐井
はい、僕自身変わったと思います。せっかくこういう学ぶ機会に恵まれたんだから、素直に全部受け止めて、徹底的に学ぼうと。そこまでやれば何かあるだろうって、覚悟ができた感じです。
安本
覚悟っていうのは、塾に入って学ぶ覚悟っていうよりも経営者としての覚悟を再認識するってことだよね。同じ年齢層の経営者同士で意見をぶつけてもらうと、「あ、そうか、隣にいたあの人はものすごい覚悟でやってきたんだ」とか、「ピンチのときにこんな経験したんだ」とか聞くだけで自分も覚悟しなきゃいけないんだって気づく。そういう場がすごく大事なので、僕はそういう場を作りたいと思ってやってきたんです。
今後の塾生に何か一言言うとすれば?
磐井
とにかく一つでも持って帰るぞみたいなつもりでやるとすごくいい場だと思う。1年間かけてやるわけだから、甘い気持ちで行くところじゃないですよね。中途半端だと時間がもったいない。僕は、講義の2時間前くらいから準備して、集中力高めて臨みました。そうしないと質問も出てこないし、バタバタして行くと集中できなくて結局雑な感じのまま終わってしまう、そういうこともあったんで、ほんとにそれはもったいなかったですね。
事務局
安本先生はどんな先生でしたか?
磐井
(言葉を選びつつ)1年通して、シンプルに「やさしいな」と感じた。甘いって言う意味ではなくて、「待ってくれる」ということです。ちゃんと課題やその原因の把握にたどり着けるまで待って、ちゃんと許容してくれて、それで指摘して、修正してくれる。最初はもっと怖い人かと。つまり、もっと手前で「お前ダメ、もっとちゃんとやれ」ってバサっと切っちゃうのかと思った。そうでなく、こちらが気づくまで結構思慮深く待ってくれる。そういう態度は学びたい。僕はせっかちなんで、待てずについもういいやってなっちゃう。
安本
褒めていただき、ありがとう(笑)。まだまだ話したいですが、この辺で…。今後とも地道に自社のでかい夢の実現に向かって頑張ってください。今日はどうもありがとう。いろいろ話せて楽しかったです。