【連載コラム】第16回/「こだわる」対象にこだわってみた

世の中には、何に対してもこだわりを持つ経営者と、ほとんどこだわりを持たない経営者の二通りいると思う。…と書いてみて、「こだわる」ことの意味に少しこだわってみようと思い、広辞苑を引いてみた。

「こだわる」とは、「些細なことにとらわれる。拘泥する。」と「些細な点にまで気を配る。思い入れする。」の二通りの意味がある。前者=悪い意味と後者=良い意味で使われる。同じ言葉なのに、前後の文脈でまったく意味が逆になる珍しい言葉であることを再認識した。

…と、どうでもいいことにこだわっていると読者は読む気がなくなるだろうから、先を急ごう。

経営者にとっては、自社の経営方針・経営戦略作りにこだわるのは当たり前のことだし、「成長すること」にこだわらないと、いつ業績が足踏みあるいは悪化するのかわからないので不安な毎日を送ることになる。

それに、肝心の自社商品・サービスにはとことんこだわらないと業績は伸びず、事業を継続できなくなるので、こだわらざるを得ない。

現代の消費者は、わがままで、せっかちで、移り気で、何でも知りたがりで、好奇心旺盛である。ただ、宣伝や一時の流行に左右されやすい消費者も一定数存在する。

商品・サービスには、消費者との品質・デザイン・機能等の「約束」をきちんと守り、「共感」を得られるようなプラスアルファの価値がないと買ってもらえない。消費者に買ってもらうための「理由」をどうこだわって創るかが事業成功の勝敗を分けるキーだ。

しかし、概してこだわり過ぎるのもいけない。

たとえば、ピラミッド型組織にこだわるあまり多階層のせいで命令伝達や意思決定スピードが遅くなり、組織全体の動きが硬直化してくる。職位・職階が多いのは、環境変化が激烈な現代にふさわしくない。なるべくフラットな組織にして、社員みんなが平等に意見を言い合え、消費者の購買動向変化にその都度対応していかないと業績はどんどんシュリンクしていく。

実際にこの目で見たことはないが、組織図を「円」の形にして、中心点に消費者を置き、円周部分に会社の各部門が平等に並ぶ形式がいいと常日頃から考えている。

これだと各部門の仕事が消費者と直接結びついていることがよくわかる。消費者と直接の結びつきがない部門は、直接結びつく部門をサポートする部門を除けば存在価値がないので、ムダな仕事をしていることになる。直ちに廃止すべきだろう。試しに円の組織図を作ってみることをお勧めしたい。

社会的制度、業界慣習、業界内の常識、系列取引などにこだわるもの良くない。あれはダメ、これはダメと自分で行動の範囲を規制し、狭めていくとやがて身動きが取れなくなる。あらゆることを疑ってかかり、境界線を自ら破って行動してみよう。イノベーションを起こすのは、一旦自社の周りにあるすべてのこだわり、あるいは固定観念を捨てるところから始まると思う。

こだわりの強い経営者は自己分析をして、何に(良い意味で)こだわっているのか観察・分析し、上述のような組織や業界慣習などに(悪い意味で)こだわりがあれば直ちに捨てるべきだ。

逆に、ほとんど(良い意味でも、悪い意味でも)こだわりがない経営者は、最低限、自社の商品・サービスには愚直にこだわるべきである。

あなたはいったいどちらだろうか。