連載コラム 第2回 フィンテック(前編)

第2回 フィンテック(前編) 2017年10月16日

昨年8月中旬にデンマーク、ノルウェー、スウェーデンの北欧旅行に出かけたが、そこでちょっとした文化的なショックを受けた。ストックホルムで市街を観光していた時、立ち寄ったコーヒーショップでの出来ごとである。

コーヒーを受け取ったあと小銭入れを出して、現金(スウェーデン・クローナ)で支払おうとしたら断られたのだ。クレジットカードかデビットカードならいい、と言う。仕方がないのでクレジットカードで支払ったが、それほどまでにキャッシュレス化が進んでいるとは思わなかった。

スウェーデンは世界でもトップクラスのキャッシュレス社会で、現地の人はほとんど現金を持ち歩かず、カードかスマホアプリによる電子決済で生活しているという。教会での小銭の寄付もカード払いだそうだ。帰国後に調べたら、国全体の現金決済比率は3%弱だという。キャッシュレス化によって、犯罪が減少したり、貨幣の発行費用が減ったり、店舗や銀行での現金取り扱いによるコストも減ったり、支払いの記録が残ってチェックしやすいなど、メリットは数多いという。

翻って、日本ではどうだろう。電子マネーと呼ばれる前払い式カード(電車やコンビニ等)やクレジットカード、デビットカードの支払いは増えてきたとはいっても、やはり現金支払いもまだ多い。日本はキャッシュレス後進国なのだ。僕もカード支払いの割合は多くなってきたものの、未だに飲食店での支払いは必ず現金で支払うようにしている。

これには理由がある。飲食店の原価・経費の主なものは材料費、人件費、店舗家賃の3つ。この3つで売上高の8~9割近くを占める。厨房設備などの減価償却費が1割を超えたら赤字になってしまう場合もある。この損益構造のなかでお客さんにカード払いされると、カード会社に売上高の2~3%程度の手数料を支払うことになるので、飲食店側は非常につらい。利益は出ないのだ。

スウェーデンではカード決済の手数料は高くない、というより無料あるいはそれに近いのだろう。決済サービス分野で価格破壊を起こしてきたフィンテックのベンチャー企業が、既存の銀行に戦いを挑んで勝ち取った成果とのことだ。

今まで決済手数料の分野で価格破壊を引き起こしてきた有力フィンテック企業であるクラーナ(スウェーデン)は、2017年6月中旬にスウェーデンの金融庁から銀行業の免許を取得した。これで、EU全域で金融サービスが提供できるようになる。受けて立つ既存の銀行業者は早急に自己変革しなくては太刀打ちできない。小が大を喰う、の構図だ。

日本国内でもそんなベンチャー企業が現れて既存の金融機関に風穴を開けてくれれば、僕は飲食店でもカード支払いするだろう。きっとキャッシュレス化に向かうほうが、社会全体として見れば相当にメリットが大きいはずである。

さて改めて、表題に掲げたフィンテック(Fintech)の本題に入ろう。

フィンテックとは金融(finance)とデジタルテクノロジー(digital-technology)の造語であり、それらを融合させた技術のことをいう。欧米のフィンテック先進国(実は、中国もフィンテック先進国なのだが、スペースの都合上、割愛する。)に遅ればせながら、これを専業とするスタートアップ企業が日本国内でも数多く生まれ、大手金融機関の経営のあり方にも大きな影響を与え始めている。そんな国内の事例の、ほんの一端を追ってみた。

中小企業向けに低料金で会計管理ができるクラウドサービスを提供するマネーフォワード、銀行口座の収支状況を管理できるサービスを提供するインフキュリオン・グループ、独自のプログラムで個人個人に応じたポートフォリオ(資産の組み合わせ)を提案するお金のデザイン、ネットで小口投資「投資型クラウドファンディング」を運営するミュージックセキュリティーズなど様々なフィンテック企業が登場している。

なかでも2012年に設立されたマネーフォワードは、個人の家計簿スマホアプリを提供することから始め、法人向けも含め様々なフィンテックのアプリを提供してきた。家計簿アプリの利用者は500万人を超え、創業5年で2017年9月29日東証マザーズに上場した。5期連続赤字を見込んでの上場ではあるが、上場初値は3,000円と公開価格1,550円の約2倍をつけ、投資家の期待は高い。

また、ドレミング(福岡市)は17年11月にセブン銀行と連携し、従業員が働いた日数分の給与を即日振り込めるサービスを始めるという。銀行が給与データを処理して毎月所定の期日に振り込むまで待つのではなく、従業員は給与をいつでも前借りできる。パート・アルバイトを多く雇う中小企業、とくに建設業や飲食業では、働いた分早く報酬が欲しいと言う人の要望に応えることが人手不足解消の一助になるだろう。

この事例を知って気づかされたのは、「月に一度の給料日」ということ自体が固定観念なのだということ。「あったら便利」というニーズに応えるのが新規事業なのだとすると、社会通念とか業界の常識などの固定観念をぶち壊さないと新規事業は生まれない。そんなときテクノロジーが固定観念をぶち破る手伝いをしてくれるというわけだ。

既存の銀行がやっている業務のほとんどが今後、フィンテックの中小企業に取って替わられる日も遠くないかもしれない。そんなことを予感させるフィンテックは、次回(後編)に続く。