【連載コラム】第15回/ノーベル賞受賞の免疫療法で組織のガンを退治する

2018年のノーベル生理学・医学賞に本庶佑さんが輝いた。人の身体を守る免疫の仕組みを利用して、ガン細胞をたたく新たな治療法開発に道を開いたことが評価された。素晴らしいことだ。

 本庶さんは「PD‐1」と呼ばれるたんぱく質を1992年に発見し、後にこのたんぱく質が、ガンを攻撃する免疫の機能を抑えるように働いていることを突き止めた。
この発見に基づく免疫療法は、免疫細胞がPD‐1によってブレーキをかけられるのを阻止することによりガン細胞をたたく方法だ。抗ガン剤による治療、手術、放射線治療に続く第4の治療法として広まっている。この研究成果を生かしたガン治療薬「オプジーボ」は、2014年に世界に先駆けて日本で発売の後、現在では60か国以上で承認・販売されている。

抗ガン剤治療や放射線治療だと、周りの良い細胞もガン細胞と同時に攻撃されて身体全体が衰弱してしまうし、副作用も問題だ。ステージの早いうちなら外科手術も有効だが、末期に近いと難しい。
一方、免疫療法は人間の身体がもともと持っている自浄作用である免疫の力を利用するため、末期ガンでも高い効果を示す割合が高いという。

この免疫療法の新聞記事を読んでいる時にぼんやりと考えていたのは、会社組織がガンのような病理細胞(事業構造や人)に侵されて業績が悪化し、このままでは倒産を免れないときに、この免疫療法のような画期的方法が何かあるのだろうか、ということだった。

いまの事業構造と過剰債務のままいくといずれ倒産するだろうという時に、中小企業の通常の再生抜本策(たとえば、各都道府県の中小企業再生支援協議会や中小企業再生ファンド主導の場合)では、オーナー経営者の全財産供出と金融機関などからの債権放棄に加え、スポンサーを見つけて資金提供・役員派遣・事業再生のためのコンサルをしてもらうことがよくある。これらはすべて広範囲な外科手術に近そうだ。

大手企業の場合には、公的機関への通報と社内のホットラインをキッカケに粉飾決算や数々の不正事件が公に暴露された後、第三者委員会が設置され詳細な調査が行われ、経営陣の入れ替えやリストラ・M&Aを含めた組織変更等となる。こちらも大規模な外科手術に頼ることが多い。

このような会社は、元々ピラミッド型の組織で、最上階のほうから腐っていって全身が蝕まれていくケースが多い。結局、経営者がガン細胞そのものなのだ。中間管理職や一般社員が免疫細胞だったとしても、なかなかガン細胞への抵抗は難しく、自浄作用に期待はできない。

ならばピラミッド型の階層組織を止め、階層なしのフラットな組織にして、社員全員の意識を変え、現場への全権限委譲と誰でもいつでもリーダーシップが発揮できる社員全員自律型組織を創ればいいのだ。それにはこんな条件も必要だろう。

 

 

 

 

 


・社員全員がすべて、いつでも同じ情報を共有できる状況にある。
・それぞれの仕事の役割分担は適材適所であり、誰でも誰に対しても言いたいことが言える。
・言い出しっぺが全権限を持つと同時に責任も持つ。
・社員全員がプライドを持ち、常にやる気にあふれ、成長意欲が高い。
こんな組織が実現できたら、組織のどこにガン細胞が発生しても免疫療法はいつでも効きそうだ。

理想論とは言え、中小企業でも100人規模以上になると実現は難しいかもしれないが、スタートアップや数十人規模のうちなら実現可能性は高いと思う。
ただし、こんな会社の社長は高い志を持っているのは当然のこととして、相当に人間的魅力にあふれていないと、そもそも自立・自律型社員は集まらないだろう。
それに、僕もまだ解が見えていないのは、役割ごとの成果配分と個々人の業績評価の方法である。これが解けたら(死ぬまで解けないかも、ですが…笑)、皆さんにぜひ勧めたいと考えている。